夏空 10


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「気にすることあらへんて、美代ちゃん。それになんやったら、せっかく旅に来たんやし、旅の思い出をたくさん描いてスキルアップしたらええやん。思わぬ心境の変化があるかもしれんで」
「……そうね。せっかくなんだし、修行のつもりで描きまくってみましょうか」

 結論から言えば、この旅は思わぬ心境の変化どころかあたしのその後の人生観をガラリと変えてしまったのだけれど、このときはまだそれぐらいの軽い気持ちでしかなかった。

 なによりこのときのあたしにとって、この旅は弥生の親捜しのお供、弥生のささやかな願いを叶えてあげる手伝いくらいの気持ちでしかなかった。

 弥生が、本当は親捜しなんてどうでもいいと思っていたなんてことは、もっとずっとあとになって知ったのだった。
 
「ふわあ。ようやく着いたなあ」

 出発から実に五時間以上もかけて、あたしたちは目的地にたどり着いた。

 山に囲まれたそこそこの大きさの町――白海。

 実際に来てみると、そこはほんとうにそこそこの大きさの町だった。

 栄えているわけでも、かといって寂れているわけでもない。周囲をぐるりと山に囲まれているし、遠くには田んぼや畑もたくさん広がっているのだけれど、駅の近くにはビルやコンビニなんかもけっこうある。

 ほどよく田舎で、ほどよく都会。でもどちらかというと、やっぱり田舎。

 そんな印象の町だった。

 正直、あたしはこういう町が嫌いじゃない。なんだか落ち着くのだ。
 町のまんなかの小高い丘の上に、大きな鳥居が見える。神社があるのだろう。

「思ってたより結構都会なんやなあ。でも、ウチとしては結構イイ感じや。こういうところで暮らしたら、伸び伸びした青春を送れそうやなあ。あの神社もええ感じや」

 妙に老人くさい感想を口にしてから、弥生は町の一角にそびえ立っている山に目をとめた。

「あっ、見て見て、美代ちゃん。おっきい山やなぁ。なんやここらのボスって感じや」
その山は、町を囲む山脈のなかからひとつだけ町側にせり出していて、独特の存在感を放っていた。

たしかに弥生の言った通り、まるで周囲を囲む山々のボスといった雰囲気だ。

「もしかして、あれが狗堂山って山なんじゃないの?」
「狗堂山?」
「ほら、初心者用のハイキングコースがあるってネットにも書いてあった」
「あー、あれかー」

 弥生は再び例の山に目を向けた。

「そっか。あれが狗堂山か」
「どうかしたの? 弥生」
「なんでもあらへん。それより美代ちゃん、宿はどこにあるんや? ウチ、ちょっと疲れてもーたわ」

 言われてみると弥生の顔はうっすらと青ざめ始めていた。

「あんた、ちゃんと薬飲んだの?」

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ABOUTこの記事をかいた人

心の研究家。 『人生はその人の心の状態で決まる』 を信条に、弱い心を強くする方法や、人間関係の悩みの解決法などを教えています。 人生に悩みを抱えている人は心を磨く努力をしましょう!