夏空11


 弥生は一日数回、薬を飲まなければならない。それも一錠や二錠ではない。知らないひとが見たらびっくりするぐらいの量を飲まなければいけないのだ。もしも飲むのを忘れたりするとすぐに体調を崩してしまうのである。ひどいときにはそのまま何日も寝込んでしまうこともある。

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 あたしの問いに、弥生はちょっと間を置いてから答えた。

「もちろん飲んだでー。単に電車に酔っただけや」

 弥生はそう言ったが、どう見ても乗り物酔いという感じではなかった。となると残る原因は疲労だろう。
 今朝から元気そうだったので、ついつい彼女の身体を気遣うことを怠ってしまった。あたしは自分のうかつさを悔いた。

「ちょっと待って、お母さんがくれたメモがあるから……」

 あたしは前もって母から受け取っていたメモを開き、宿の住所と名前を確認した。

 当然ながら、高校生のあたしたちだけでは宿の予約(それも長期)を取ることは出来ないので、この旅はあたしの両親の全面的な協力のもとに成り立っている。宿の手配もそのひとつだ。

 父も母も女の子ふたりだけの旅ということに最初は難色を示したが、弥生のたっての頼みであるということで最終的には協力してくれた。

 父も母も弥生の寿命のことは知っている。だから母はこのメモを私に渡したときに、

「弥生ちゃんが最後まで幸せでいられるように、ずっとそばにいてあげなさいよ」

 と言い、父も、

「ひとの幸せは金や名誉や健康があるかどうかじゃないぞ。自分を大切に思ってくれる誰かがいるかどうかだ。だから、お前が弥生ちゃんの支えになってあげなさい」

と言った。あたしは深く頷いた。

父や母には悪いけど、そんなこと、今さら言われるまでもない。

あたしは、あたしのすべてを投げ打ってでも、弥生のそばにいてあげたいと思っているのだから。

「えーっと、駅前でバスに乗るって書いてあるわね。バス停は……ああ、あそこか。ちょっと待って、時刻表調べてくるから」
「うん」

 あたしはすぐそばの停留所に歩み寄り、時刻表を調べた。そこで顔をしかめた。

「まずいわね、あと三十分以上あるわ。どうする、弥生。タクシーでも拾う? つってもタクシーも全然見当たらないけど……」

 もっと事前にちゃんと調べておけば良かった、とあたしは再び後悔した。
「ええよー。まだそこまで疲れてへんから。バス来るまでそこのベンチで休んでよーや」
「そうね」

 あたしたちはバス停のそばのベンチに並んで腰かけた。ありがたいことに、上手い具合に日影になっている。

「大丈夫、弥生。ジュースでも飲む? 辛かったら、横になってもいいわよ」

 弥生の病気のことで深刻にはならないと決めているあたしだが、こういうときはやっぱり、彼女のことを気遣ってしまう。こればかりはしょうがない。

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