夏空 17

「あのなー、美代ちゃん。よう考えてやー。十六年前に山で発見されたとき、ウチはまだ赤ん坊やったやろ。だから親を探す言うても、目撃者を探すとか、そういう方法しか出来なかったわけや。でも、今ウチはコレこの通り、清く正しく美しく育った」
「げふんげふん。清く正しく育ったわけね」
「……なんでそこだけ抜かすかなー。とにかく、ウチは成長したわけや」
「だから、なんでそれが手掛かりになるってのよ」
 あたしには本当に分からなかった。

スポンサーリンク

 弥生は呆れたように、

「美代ちゃん、意外とニブイなー。あのな、子供ってのは親に似るねんで?」
「あっ!」

 ようやく合点がついた。

「そうか、もしも弥生の親がこの町の人間なら――」
「ウチに似たひとを探せばいいわけや。もしくは、ウチに似たひとを知っているひとを。ウチは女の子やから、特に母親に似とるはずや」
「おー」

 あたしは感心のあまり思わず変な唸り声を出してしまった。

「あんた、本当に色々考えてんのねー」
「へっへっへー」

 弥生は照れたように笑った。
 それから、再びファイルを開いて言った。

「それにな、手掛かりはそれだけやないで。ここ見てや、ここ」

スポンサーリンク

 弥生は例の記事の一文を指差した。

 今月二十日早朝、○○県○○市白海町にある狗堂山山頂に新生児が置き去りにされているのを――

「狗堂山?」

 あたしはさっき読み飛ばした部分に再び目を凝らした。

「これって、もしかして……」
「そや、あの山や、あの山」

 弥生は窓の外の、例の威圧的な山を指差した。

「ウチな、考えたんや。ウチがあの山のてっぺんで発見されたのは早朝や。ちゅーことは、ウチの親は夜中のうちにあの山に登ったってことやろ。でも、いくら人目につかないため言うても、真夜中にまったく知らん山に登ったりするのは普通怖くて出来へん。ということは――」
「弥生の親はあの山に登ったことがある人間。もっと言えば、あの山に慣れ親しんでいる人間。つまり――」
「この辺りで生まれ育った人間」

 弥生が言った。

スポンサーリンク

前へ 次へ 作品一覧へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください