夏空 18


あたしは、弥生が妙に狗堂山のことを気にしていた意味をようやく理解した。
 同時に、女将さんの言葉も思い出す。
 この辺りの子供なんか、毎日あの山で遊んでいるんだから――
「お、おおー」
 あたしは再び唸り声を上げてしまった。

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 しかも、さっきよりも感心の度合い大きく。

「やるじゃん、弥生。いやー、なんかびっくりだわ」
「ふっふーん。名探偵弥生とはウチのことや。犯人はこのなかにおる!」
「……いや、それじゃあたしが犯人になっちゃうでしょ。というか犯人ってなによ」

 いつものしょーもないボケはともかく、弥生の推理には本当に驚いた。

 弥生が推理したということ自体にも驚いたが、なによりも、弥生の親がもしかしたら本当に今あたしたちのすぐ近くにいるかもしれないという事実が、衝撃だった。

「やばい、なんかあたし、ちょっと興奮してきた。まるで刑事ドラマみたい」
「ほんまやなー。ちゅーわけで、明日からさっそく捜査を開始してみよか」
「そうね。とりあえず明日は、あの山に行ってみましょうか」

 あたしは窓の外にそびえる狗堂山を指差した。

 さっきまで威圧的に見えていたその山は、少しだけ親しみやすそうに、あたしたちを見守っていた。

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 その、すぐ後。明かりの消えた部屋のなか。
 旅の疲れもあってあっさりと眠りについてしまったあたしだったが、隣から妙な声が聞こえてきたため、ふと目を覚ました。

 それは弥生の声だった。

 うなされているような、苦しげな吐息が、闇のなかから微かに聞こえてくる。

「弥生?」

 弥生はこちらに背を向けて寝ている。あたしはその小さな背中に呼びかけた。

 その途端に、呻き声がやんだ。

「どうしたの? まさか、また発作?」

 しかしあたしの心配に反して、弥生はくるりと振り返ると、恥ずかしそうな笑顔を浮かべて言った。

「お化けに追いかけられる夢見てもうたー。えへへ」

 あたしはがっくりとうな垂れた。

「なによ、もう。おやすみ」
「うん。おやすみ、美代ちゃん」

 弥生はまたも向こうを向いた。
 それきり呻き声は聞こえなくなったので、あたしは安心して、また眠りについた。

 どうしてこのとき気づいてあげられなかったんだろうと、あたしはこの旅のことを思い出すたびに後悔する。

 弥生が、なにを隠し、なにから逃げようとしていたのか。

 なにを本当は求め、望み、最後の命を使ってでも手に入れようとしていたのか。

 あたしが気づいてさえあげていれば、もっともっと、たくさんのものを与えてあげられたのに。

 あれから五年経った今でも、後悔の念は、尽きない……。

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