夏空 20

「なんでカバンのなかで作業してんのよ。一旦全部カバンから出してから探せばいいでしょ?」
「いやー、この方が元に戻す手間がはぶけてええと思ったんやけどなー。意外と手間取ってもーた。でも、ほら、ちゃんと取り出せたで」
「たく、ズボラなんだから。って、それ一個でいいの?」

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 弥生が取り出したのは、カプセル状の薬一錠だけだった。

 いつもは一度に五つも六つも飲んでいるので、ちょっと意外だった。

 と言うと弥生が、

「たくさん飲むのはゴハンの後でええねん。これは今みたいな発作が出たときに飲むやつや」

 と言ったので、あたしはそんなものかと納得した。
 薬を飲むと、気持ち、弥生は回復した――ように見えた。……さすがにそんなに即効性ではないだろうが。

「ふう。朝から波乱万丈やなー。やっぱ旅はこうでないとあかんな」

 まるで人ごとみたいに言う。

「あたしは波乱もサスペンスもない方がいいわよ。ていうか、本当に弥生、大丈夫なの?」
「なにが?」
「この旅行よ。本当に続けられるの?」
「心配あらへん。ウチは元気モリモリや」
「モリモリって、あんたね……」

 またも気まずさを誤魔化しているのか、または本気でボケているのか、分からないところが弥生の困ったところである。
 とはいえ、やはり冗談を言える程度には元気なようなので、あたしはホッとした。

「あらあら。ふたりとも早いわねえ。普通の学生さんは夏休みになると昼近くまで寝てるひとが多いのに」

 そのとき、女将さんが部屋に入って来た。
 ちなみにこの女将さんは、美知子さんというらしい。昨日名前を聞いたのだ。

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「朝ごはんの用意が出来てるんだけど、もう部屋に運んじゃっていいかしら」
「あ、はい。お願いします。弥生、布団畳むけど、大丈夫?」

 あたしは、もう少し寝ていなくて大丈夫か、という意味で尋ねたのだが、弥生は(もちろん意味が分かった上で)わざとらしく、

「大丈夫に決まってるやん。ウチ、布団が畳めへんほど子供やないで?」
「そういう意味じゃないわよ」

 あたしたちのしょーもないやりとりを見て、美知子さんはくすくすと笑った。

「仲がいいのねえ。あなたたち、姉妹――じゃないわよね。もちろん。でも、本物の姉妹みたいよ」
「そうですか? これでも一応、同い年なんですけど」
「見た目は同じくらいだけど、雰囲気がね。美代ちゃんが面倒見のいいお姉さんで、弥生ちゃんが手のかかるワガママ妹って感じがするわ」
「なるほど」
「待った。美代ちゃんのイメージは分かるけど、ウチのキャラクターは間違ってるで。ウチは妹は妹でも、おとなしくて気品溢れる、深窓の令嬢タイプの妹や」
「深窓の令嬢がバラエティ番組の見過ぎで、ウソ関西弁使ったりはしないでしょうが」

 あたしは一蹴した。

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