夏空 21

 何度も言うように弥生の関西弁は偽物だ。バラエティ番組の見過ぎでこうなってしまっただけである。とはいえイントネーションや言葉使いなんかも明らかに本場のそれとは違うので、彼女を本物の関西人だと考える人間はまずいないだろう。

スポンサーリンク

 と、あたしは思っていたのだが、それを聞くと美知子さんは驚いたように、

「あら、弥生ちゃん、関西のひとじゃなかったの? あたし、てっきり……」

 なんと。この胡散臭い関西弁を真に受けてしまったひとがいたとは……。
 あたしは驚いたが、次に美知子さんが発した言葉はさらに驚き――というよりも衝撃だった。

「ねえ、弥生ちゃん。もしかして、弥生ちゃんのお母さんって、この辺りに住んでなかった?」
「えっ?」

 あたしたちは同時に、悲鳴にも似た声をあげた。
「ど、どうしてそんなこと訊くんですか?」
「実はね、弥生ちゃんにそっくりな女の子が昔、この辺りに住んでたのよ。それで、初めて弥生ちゃんを見たときから気になってたんだけど……関西弁だからてっきり他人の空似だと思ってたんだけど……」

 うお、うおお……!

 あたしは興奮で全身が熱くなるのを感じた。

 これは、もしや弥生のお母さんのことではないのか? 

 昨夜の弥生の推理はぴたりと当たって、早くも弥生の母の情報を知る人間と出会えたわけだ。

 あたしはなんだか、本当に探偵ドラマの主人公になったような気分になった。

 いや、主人公は弥生か。

「そのひと、なんて名前のひとですか?」

 主人公の弥生が尋ねた。

 弥生もかなり驚いている。

 しかしその驚き方はあたしとはちょっと違っていて、意外、という顔で美知子さんを見つめていた。

スポンサーリンク

「あの子の名前はね……確か、葉山香織ちゃんだったはずよ、もう二十年近く見かけてないから、もしかしたら間違っているかもしれないけど……」

 葉山香織。それが弥生のお母さんかもしれないひとの名前か。

 あたしは深くその名前を胸に刻み込んだ。

 いいや、やっぱり忘れちゃうかもしれないから、あとでメモしておこう。

 またも弥生が訊いた。

「あの、もう二十年近く見かけてないっていうことは、そのひと引っ越したんですか?」
「たぶんね。中学校を卒業して就職したって話は聞いた覚えがあるんだけど……どうしてそんなことを訊くの? 弥生ちゃんのお母さんじゃないの?」

 美知子さんは不思議そうに弥生を見た。

 まずい、と思ったが、そこは(妙に)頭の回転の早い弥生である。とっさに作り笑いを浮かべて、

「いやー、オカンではないんやけど、もしかしたら知らない親戚かなにかかと思って。ウチんち、全然親戚づき合いとかせーへんから」
「ああ、そうか、親戚ね。そういうこともあるわね」

 美知子さんはなんの疑いもなく信じたようだ。

 まあ普通に考えれば、こんなことでウソをつく人間など少ないだろうから、信じてしまうのも無理はない。

スポンサーリンク

前へ 次へ 作品一覧へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください