夏空 24

「うわあ! ええ天気やなー」

 宿の外に出るなり、弥生は空を見上げて歓声を上げた。

 天気は快晴。昨日と同じ、抜けるような青い空があたしたちの頭上を彩っている。

 天から降り注ぐ強烈な夏の日差しを浴びて、緑の木々がますます瑞々しく輝いている。

 その全身で、生命の喜びを表現するように。

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「やっぱあれやなあ、こういう自然の多いところやと、空が一層青く感じるなあ。これも旅の効果やろか」
「そうかもね。それとも単純に、空気がキレイなのかもよ」

 あたしは言った。早起きのセミたちはもうすでに、あっちこっちで合唱を始めている。

 私は、夏のこの雰囲気が大好きだ。

 セミの鳴き声。強烈な日差し。すべてが鮮烈で、生きる力に溢れていて、そしてどこか、懐かしい気持ちにさせてくれる。

「えへへ」

 と、いきなり弥生が隣で奇妙な笑い声を上げたので、あたしは眉をひそめた。

「なによ、なに笑ってんの? まさか、なにか企んでる?」
「ちゃうちゃう。なんやこういう、いつもと違う景色を眺めとるとなー、ほんまに美代ちゃんと旅行に来とるんやなーって実感してな、嬉しくなってきてもーた」
「今さらなに言ってんのよ。もう」

 あたしはあまりに弥生がストレートに喜びを表現してきたので、ちょっと照れ臭くなってしまい、わざとぶっきらぼうに顔をそむけた。

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 弥生と一緒にいると、ときどき、彼女がとても幼い子供のように見えるときがある。

 あたしはそれを、弥生の『甘えモード』と呼んでいる。例のおねだりなどもこのモードのときに発動する。

 ただしこの甘えモードには二種類あって、今みたいに子供っぽさが自然に表に出ているのが良い甘えモード、子供のフリをしてワガママを通そうとするのが悪い甘えモード――別名おねだりモードである。

 このふたつを正確に見極められるのは、世界広しといえどもたぶんあたしだけだ。

 なぜならおねだりモードの世界一の被害者があたしだからだ。

 それはともかく。

「ま、あんたが喜んでるんなら良かったわ。けど、体の方は大丈夫なの? これからもっともっと暑くなりそうだけど、行けそう?」
「平気や。昨日からウチ、ずっと調子ええねん。ううん、美代ちゃんと旅に出るって決まったときから、ずっと調子がええんや」
「そう。それなら良かった」
 つい昨日、駅でぐったりしていた気がするが、本人が調子が良いというのなら本当なのだろう。

 それとも弥生にとって、昨日や今朝程度の発作は、発作の内に入らないのだろうか。

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