夏空 25


「じゃ、とにかく例の徳さんってひとの家に行ってみましょ。山のふもとの青い屋根の家って行ってたから、とりあえず狗堂山の方に歩いていけば見つかるでしょ」
「了解。弥生探偵団、出発や」
 弥生のわけの分からない掛け声とともに、あたしたちは歩き出した。

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 駅周辺の白海の町は比較的都会だったけれど、この辺りになるといかにも田舎といった風情になる。

 田んぼや畑が広がり、川や用水路を流れる水のせせらぎが、どこまでもどこまでもついてくる。

 あたしたちが暮らしている都会とは明らかに時の流れが違う、穏やかでゆったりとした別世界が、ここにある。

 あたしは、なんだか子供のころに戻ったような気がして、わくわくし始めた。

 しかし、あたし以上に盛り上がっていたのが――

「わっ、美代ちゃん、ほら、カニがおるで! なんてカニやろ?」
「たぶん沢ガニでしょ。食べられるのよね」
「あっちには魚がおる!」
「あれは鮎、かな?」
「あの花はなんて言うんや?」
「……そこまでは知らないわよ」

 どうやら弥生は初めての遠出に舞い上がっているらしく、まるで幼稚園児のように無邪気にはしゃぎまくっている。

 あたしは苦笑しつつ、弥生が誤って川に落ちたりしないように見守っている。

 もはや完全にお母さん状態である。これではさすがに若さがないのではないだろうかと内心ちょっとだけ思ったりもしたが、これも性分なので諦めるしかない。

 それにあたしは単純に、弥生が楽しそうにしているのを見るのが好きなのだ。

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「美代ちゃーん、この川、面白い生き物がいっぱいおるでー。ちょっとここで遊んでいこうやー」
「いいわよー、って、あんた、弥生探偵団はどうしたのよ」
「今は休業中や。不況やから」

 なんじゃそりゃ。

 まあ、弥生がそれでいいというのなら、反対する理由はない。

「あっ、そうだ」

 と、あたしはそのときふと閃いて、カバンのなかを探った。

お目当ての大学ノートを取り出して開き、シャーペンを握り締める。

「あれ? 美代ちゃん、絵ぇ描くの?」

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