夏空 28


「だけど、絶対に無茶はしないって約束してよね。あたしが無理そうだと判断したら素直に諦めること。それから、辛くなったらむしろ自分から進んでギブアップすること。意地を張ったってしょうがないんだからね。オーケイ?」
「オーケイ! けど、ウチは絶対にギブアップなんかせえへんで!」

 そしてそれから、三十分後。

「ギブアップや……」
「……うん、分かってはいたわ」

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 後ろを振り返り、あたしは冷静に言葉を吐いた。

 よれよれと老人のように杖をつきながら、弥生がこちらを見上げていた。疲労困憊という言葉がこれほど当て嵌まる状態というのも珍しい。息も絶え絶えな感じである。

「だから言ったじゃない。山登りってのは見た目ほどのどかなもんじゃないのよ」
「うう……ウチが甘かったみたいや……山登り、恐るべし……」

 冗談を言えるだけの体力はまだ残っているようなので、ちょっとだけ安心する。

 もっとも、冗談も言えなくなるほど疲れる前に、あたしがストップをかけていただろうが。

 それから、あたしたちは来た時と同じくらいの時間をかけて山を下りた。

 ハイキングは下りのときの方が大変、とは聞いていたが、もともと大した高さも登っていなかったので、問題なく下山出来た。

 戻る途中、何人かの登山者とすれ違った。こういうところに来るのはお年寄りばかりかと思ったが、若いカップルがいたのは意外だった。わざわざこの山に登りに遠方からやってきたのだろうか。

 登山口から外に出ると、より一層強烈になった日差しがあたしたちを待ち受けていた。

 あたしは手の平でひさしを作り、空を見上げて顔をしかめた。

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「うひー、これはさすがに強烈すぎるわね。外にいたら日射病になっちゃうわ」
「ホンマや~。殺人光線やで、これ」

 さすがの弥生もこれでははしゃぐ気になれないらしい。元気なのはセミぐらいだ。

 と、弥生が額を押さえた。

「あかん、ウチ、ちょっとクラクラしてきてもーた」
「ちょっと、弥生、大丈夫?」

 見ると、弥生の顔がいつもよりさらに青くなっていた。

疲労のせいで体調を崩してしまったのかもしれない。

 あたしは近くの木陰に弥生を座らせた。

「しばらくここで休んでいきましょ。それとも、薬飲んだ方がいいの?」
「大丈夫や。ちょっと休めば治る」
「なら、せめて水だけでも飲んでおきなさい。熱中症になっちゃうから」

 あたしはカバンのなかからペットボトルを取り出した。

 が、この気候で温められてしまったらしく、とてもおいしく飲めるような温度ではなくなっていた。

「どっかその辺で自販機でも探してくるわ。待ってて」
「そこまでしてくれなくてもええよー。ちょっと疲れただけやから」
「念のためよ。もしなにかあったらすぐに電話して。携帯は持ってきてるでしょ?」
「昨日充電忘れたから、持ってきてない」
「たくもう! とにかく、ここで待ってて」

 あたしは立ち上がり、周囲に視線を巡らせた。

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