夏空 3


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 弥生がどれだけ大変なものを背負っていようとも、病気の話題を持ち出そうとも、弥生の前では平然とし、他のひとと変わりなく接することにしたのである。

 弥生もそれが嬉しかったのか、自然と話し相手にあたしを選ぶようになり、いつしか、あたしたちは誰よりも仲良くなっていた。

 だから、弥生の命があと数カ月だと聞かされたときも、あたしは泣かなかった。弥生も泣いていなかった。

 平然と、まるで世間話をするかのように、あたしたちはその運命を受け入れたのだ。

 もちろん、本当は胸が張り裂けそうなほど辛いけれど。
 それでもあたしは、今日も平然と彼女に言葉を返すのだ。

「へえ。早いもんだねえ。もうあれから二カ月が経ったか」

 あたしはそう言いながらひょいと箸を伸ばし、お弁当の卵焼きを口に運んだ。 
 と、その態度が気に入らなかったのか、弥生は不満そうに口を尖らせた。

「ええ~、なんでそんなリアクション薄いねん~。ここはもうちょっと深刻にならなあかんところやろ~」
「そう言われてもねえ。前々から聞いてたことだし」

 断っておくが、あたしだって、本当はなにも感じていないわけではない。

 だけど、それを表に出さないように努力しているのだ。
 それが結果的には、弥生のためになると知っているからだ。

 と、弥生は大げさにため息をついた。

「はあ……相変わらず美代ちゃんは薄情やなあ。もっとこう、薄倖の美少女を労ろうという気持ちはないもんかな~」
「あたしには卵焼きの焼け具合の方が大事なのよ。というか、誰が美少女だって?」
「ウチや、ウチ。美人薄命の体現者やで」
「美人は自分で美人って言わないのよ。残念ながら」

 あたしはいつものようにしれっとキツいことを言う。
 繰り返すが、これが、あたしと弥生の正しいコミュニケーションなのだ。

 そして、あたしと弥生だからこそ出来る、コミュニケーションなのである。

 あたしは訊いた。

「で? 余命約五カ月半だから、なんだっての? まさか、最後の夏くらい男の子との思い出が欲しいから、海に行こうとか言いだすんじゃないでしょうね?」
「んん~、惜しい~。遠くに行くってのはあってるけど、男の子とではないねん。それに海でもない。正解は山や」
「山?」
「白海って町に行きたいんや。山に囲まれた町やで」
「しらうみ? どこ、そこ? 観光地かなにか?」
「ううん、全然」
「じゃあ、知り合いでもいるとか?」
「おるかもしれんし、おらんかもしれん」
「なんなのよ、それ」
「あのな、そこ、ウチが拾われた町なんやって」
「えっ……」

 あたしは一瞬、言葉を失った。初耳だった。

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心の研究家。 『人生はその人の心の状態で決まる』 を信条に、弱い心を強くする方法や、人間関係の悩みの解決法などを教えています。 人生に悩みを抱えている人は心を磨く努力をしましょう!