夏空 31


「香織ちゃんの親戚……そう」

 徳子さんは驚いたようだった。

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「いえ、まだ可能性でしかないんですけど……宿の女将さんが、弥生と香織さんがすごく似ているって言ってただけで……」
「宿ってのは美知子ちゃんのとこだろう? なら本当に似ているんだろうね。この辺りのひとはみんな香織ちゃんのことは覚えているだろうから」
「おばあちゃんは……あ、そうか」

 弥生と香織さんは似ていると思うか、と訊こうとして、徳子さんの目のことを思い出した。

 やっぱりデリケートな問題だ。どうしても気を使ってしまう。

「あたしも昔は目が見えてたんだけどねえ」

 気まずい沈黙を察してか、徳子さんが明るく口を開いた。

「だから香織ちゃんの顔もばっちり覚えてるよ。綺麗な黒髪のべっぴんさんでねえ。お人形さんみたいにかわいかった」
「間違いない。ウチの親戚や」

 布団の上で息を乱しながらも、弥生がすかさず便乗してくる。

「静かに寝てなさい。またはたくわよ」
「はいぃ……」

 弥生は観念したように口を閉じた。

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 とはいえもちろん話は気になるらしく、顔はこちらに向けたままだ。

「まあ、あたしも完全に失明したわけじゃないから、運が良ければ顔を比べることも出来るかもしれないけどね」
「見えるんですか?」
「ときどきね。血のめぐりのいい朝なんかに、ぼんやりとだけど見えるときはあるよ。ただ、最近はほとんどなくてね」
「そうですか……」

 これでは検証することは不可能だ。

 とりあえずそのことは置いておいて、あたしは別の質問をすることにした。

「あの、徳子さんと香織さんは、どういった関係だったんですか?」
「どうって言われてもねえ……よくウチに泊めてあげたよ。夜中にひとりでふらふら歩いてたからねえ」
「それは……香織さんがお父さんから虐待されてたからですか?」
「そうさ。ひどい父親でね。酒を飲んで暴れるし、平気で女を連れ込むし……夜中だってのに、香織ちゃんはしょっちゅう家から追い出されてたよ……」

 それから、徳子さんは葉山香織のことを教えてくれた。

 夜、家から追い出されて浮浪していた香織を、毎晩のように家に泊めてあげていたこと。

 徳子さんが学校の先生や相談所に掛けあっても、ハッキリとした証拠がないということで解決はしてもらえなかったこと。

 やがて香織も、誰かに助けてもらおうとは思わなくなっていったこと。

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