夏空 34


 駅前の市街地と狗堂山のちょうど中間辺りにある小高い丘の上に、葉山香織のお墓は立っていた。

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 辺りには同じようにたくさんの墓石が立ち並んでいる。

 まだお盆前だからなのか、霊園のなかにあたしたち以外に人影はなかった。

 本来は静寂であるべき場所だからなのだろうか、セミたちの泣き声もここではどこかうら寂しいものに聞こえる。

 もちろん、そんなものはあたしの幻想に違いないのだろうけど。

「これからどうする、弥生?」

 『葉山家』と書かれた墓石をしばらく眺めたあと、あたしは隣の弥生に尋ねた。

「ここに眠ってるひとが本当にアンタの母親かどうかはまだ分からないけど、葉山香織がもう生きていないってことだけは分かったわ。それでも、調査を続ける?」
「……続けたい」

 弥生は墓石を見つめたまま答えた。

「このひとがホンマにウチの母親なんか。もし母親なんやとしたら、どうしてウチを捨てたのか、おばあちゃんと別れたあとに何があったのか、ウチ、知りたい」

 珍しく真剣な口調だった。

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 あたしには、まるで静かに怒っているように聞こえた。

「弥生?」
「勝手すぎるで、このひと」

 弥生は突き放すように言った。

「幸せになりたいなんて言うとったくせに、温かい家庭が欲しいなんて言うとったくせに、子供捨ててさっさと死んでまうなんて、無責任すぎるで」

 弥生が怒るなんて滅多にない。しかしあたしには、それは怒りというより失望や落胆の裏返しであるような気がした。

 要するに、拗ねているのだ。

「まだこのひとが母親だって決まったわけじゃないでしょ。それにもしそうだとしても、もしかしたらちゃんとした理由があったのかもしれないわよ」
「そんなの、分からんやん」
「だから、それをこれから調べるんでしょ」

 あたしは小さな子供に言い聞かせるように、優しく弥生の頭をなでた。

「あたしもちゃんと付き合ってあげるから、そう投げやりにならないの。ね?」
「……うん」
「よしよし」

 弥生は強い子だ。どんなに辛くても、寂しくても、それを表に出すことはない。

 だけどそのせいで、今みたいに必要以上に強がってしまうことも少なくない。

 だからそんなときは、せめてあたしだけでも彼女の本音を汲み取って、慰めてあげたいと思う。

「さっ、というわけで、さっそく明日からまた調査を再開しましょうか」
「うん。弥生探偵団、再出発やな!」

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