夏空 35


 こうして、あたしたちは再び葉山香織という人物について調査を進めることにした。

 ただし、今度は(生前の)葉山香織についてという括弧つきで。

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 あたしたちはまず、葉山香織の就職先を知るために、彼女の母校である中学校に行ってみることにした。

 しかし残念ながら現代は個人情報保護法という、探偵団にとっては天敵のような法律が成立してしまっていたため、葉山香織についての情報はなにも教えてはもらえなかった。

 しかしそれでも、あたしたちは諦めなかった。

 こうなったらもう本当に探偵になりきるのみ! とばかりに、白海中の弁当屋をしらみつぶしに当たったのだ。

 徳子さんは数が多くてとても無理だと言っていたが、冷静に考えてみれば白海の町はそこまで大きくはないし、弁当屋というのも数が限られてくるだろうから、やってやれないことはないだろうとあたしたちは判断したのだ。

 弥生の体力のこともあるので、毎日毎日街中を歩き回った……とはとても言えないが、それでもかなり精力的にあたしたちは白海の町を歩き回った。

 その結果、ついに十日後、あたしたちはかつて葉山香織が働いていた弁当屋を見つけ出した。

「葉山香織? ああ、いたねえ。でも、入って一年も経たずに辞めちまったよ。理由? 確か飲み屋のねーちゃんにスカウトされたんじゃなかったかな。あの子も金が必要だって言ってたし。え? なんで金が要るのかって? えーっと確か、そうだ、男に貢いでたんだ。タチの悪いのに掴まっちまったんだよ」

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 弁当屋の店主のおじさんはそう説明してくれた。

 さらに、葉山香織がすでに死亡していることを教えると、

「ええっ、もう亡くなっちゃったの? そうか……うーん、でも、確かにああいう、幸せの青い鳥を追いかけてばかりいる人間に限って、どんどん坂道を転がるように不幸になっていっちゃうもんなんだよなあ。人間、普通が一番だよ」 

 と納得顔で言った。どうやら葉山香織はここでも幸せを求めていたらしい。

それはそうと、店主も飲み屋の名前までは分からないということだった。

あたしたちは再び調査を開始した。もちろん今度は飲み屋を捜すためだ。

連日の聞きこみ調査。そのうえ今度の相手は飲み屋なので、夕方以降にならないと開いていない。そこであたしたちは午後の五時から九時までを調査時間と決め、それ以前の時間は自由に旅行を楽しむことに決めた。

慣れない夜の繁華街を歩くのは結構勇気のいることだったが、時間もそれほど深くはないし人も多かったので、どうにかこうにか探偵活動を続けることは出来た。

とはいえ、本音を言うと、あたしたちには調査をしているという意識はなかった。

 もちろん葉山香織の生前の行動を明らかにするという最終目的はある。

しかしそれはあくまで名目上というか、立て前のようなもので、実際は昼間の白海の町を観光することを楽しんでいたというのが正確なところだ。

町のなかを歩く。買い物をする。ゴハンを食べる。

山側よりはずっと都会とはいえ、それでもあたしたちの暮らしている街よりははるかに自然の多いこの白海の町は、毎日歩いても飽きることがない。

 なにより、弥生が楽しそうにしていることが、あたしには嬉しかった。

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