夏空 36


「あっ、美代ちゃん、おっきな神社があるで! あれ、駅で見た奴とちゃうか!」

 例の飲み屋を捜し始めて数日後、あたしたちは堀で囲まれた小高い丘の前を通りかかった。

 丘の斜面には長い石段が作られており、その先には真っ赤な鳥居が見える。石段と鳥居の周りには無数ののぼりが立っていた。

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「たぶんそうね。あんなにのぼりが立ってるってことは、近々お祭りでもあるんじゃないかしら」
「お祭り? ホンマか?」

 弥生が目を輝かせた。そう言えば弥生はお祭りに行きたがっていたのだった。

「もしかして、美知子さんが言ってたお祭りってコレのことなんじゃないかな。ええと……ああ、ほら、きっとそうよ」

 あたしは近くの壁に貼ってあった張り紙に目を向けた。

 それによると、今から数日後の八月十九日にお祭りがあるらしい。それもこの感じからすると、結構有名で大規模なもののようだ。

「あれ? ていうかこれって、あんたの誕生日の前の日じゃない?」
「あ、ホンマやー。というかウチ、もうすぐ誕生日やったんやったな。忘れとったわ」
「あたしは覚えてたわよ、もちろん」

 というか、忘れたことなどない。

 ただそのおかげで、毎年のプレゼントに頭を悩ませていたりもするのだが……。

 今年は弥生の十六回目の、そしておそらく、人生最後の誕生日だ。絶対に彼女の喜ぶものを用意しなければと思うのだが、そう思えば思うほど、いいアイディアが出てこない。

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 と、そのときだった。あたしは神社の目の前に和服屋があることに気がついた。

 店頭には、若い女の子向けらしい、かわいくて色鮮やかな柄の浴衣が飾られている。

 それを見た瞬間、あたしは閃いた。

「どうしたんや? 美代ちゃん」
「ううん、なんでもない」

 慌てて誤魔化す。

 やっぱり、楽しみはあとに取っておいた方がいいだろう。ちょっとしたサプライズもあるとなお良し、だ。

 あたしはそのサプライズをさらに有効に生かすため、そ知らぬ顔をしてお祭りの話題に戻った。

「そんなことよりも、このお祭りに遊びに行くって約束、忘れてないわよね?」
「忘れるわけないやん。ウチの記念すべきお祭りデビュー日やで!」
「なら、気分よく遊べるように、一刻も早く葉山香織が働いてた飲み屋さんを見つけ出して、仕事を終わらせなくっちゃね」
「オー! やったるでー!」

 その想いが通じたからなのかどうかは分からないが、その三日後、あたしたちはついに葉山香織が働いていた飲み屋を見つけ出すことに成功した。

 そしてそこのママから、葉山香織が中学校を出てから弥生を捨てるまでのすべてを、教えてもらったのだ。

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