夏空 37


 第三話 幸せの在り処

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 その飲み屋は、駅の反対側にあった。

 ほどほどに栄えた繁華街。その大通りから一本路地に入ったところにある、なんだかいかがわしい看板のお店がそれだった。

 看板には『マリアン』という文字と、派手な服を着た女の子のイラストが描いてある。
こういうのをキャバクラというのだろうか。それともスナックというのだろうか。正直、あたしにはそのふたつの違いが分からない。

 ただなんとなく、エッチなお店でなければいいな、と思った。

 葉山香織のためにも、そう思った。

「エッチなお店やったりして」

 あたしの隣で同じく看板を見上げながら、弥生が遠慮なく思ったことを口にする。

「そういう余計なことは考えなくていいの」

 自分も実は同じことを考えていたくせに、ついついマジメぶってそんなことを言ってしまった。

「大体、葉山香織がここに働きに来たのは十五、六歳くらいのはずなのよ。変なお店だったら働けるわけないでしょ」

 あたしたちがこのお店の情報を掴んだのは、まったくの偶然だった。

 葉山香織が働いていた飲み屋を捜して繁華街を調査していたとき、たまたま通りがかった酔っ払いのおじさんが、弥生に似たひとを昔見たことがあると言ったのだ。

 そのオジサンからこのマリアンの店名を聞き、今日、こうして訪れてみたというわけである。

 あたしは隣の弥生に目を向けた。

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「準備はいい?」
「……うん」

 なんだかあたしまでドキドキしながら扉を開いた。

「すいませーん」

 カランカランと鐘が鳴る。

 てっきりなかではムーディな照明がついていて、大勢の酔客で賑わっているものと思ったが、予想に反して店内は薄暗く、そして閑散としていた。

 どうやらまだ営業準備中だったらしい。現在、時刻は午後五時半なので、おそらく六時ごろに開店するのだろう。

 薄暗い店内にはふたりの人影しかなかった。テーブルを磨いている若い女性と、カウンターでグラスを磨いている中年の女性だ。

 若い女性は派手な茶髪で、いかにも夜の商売といった雰囲気だったが、中年の女性の方はそれよりも落ち着いた髪型と服装をしていた。なんというか、ワンランク上、という感じである。

「はい? どなた?」

 と、そのワンランク上の方の女性が声をかけてきた。

「あの、すいません、ちょっとお聞きしたいことがありまして」
「聞きたいこと? なあに? あたしに?」

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