夏空 4

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「そうなんだ……へえ、そりゃあ知らなかったわ」
「そうやろう。だって、誰にも言わんかったからなー」
「なんで言わなかったのよ」
「あんま話題に出ぇへんかったからなー。ウチが拾われたときのこと」

 そう言われてみると、確かにそうだ。
 弥生が捨て子で、施設に預けられてこっちに来たことは知っていたけど、どこで拾われたのかまでは訊いたことがなかった。

「まあ、ゆうてもウチも詳しいことはなんにも知らんから、教えたくても教えられんかったんやけどなー。ウチが知っとるのは、赤ん坊のときにその白海って街で拾われたってことだけや」
「で、あんたはそこに行きたいってわけ?」
「そう」
「なんでまた?」

 アタシの問いに、弥生はいつものポケポケした笑顔のまま、さらりと答えた。

「親を捜したいねん」

 あたしはまた言葉を失った。
 弥生の口から両親の話題が出るのは、これが初めてだったからだ。

「親を……」
「うん。ウチを生んだ親。おるかもしれんやろ。なにしろウチが捨てられとった街なんやし。同じ街に住んどるかもしれんやん」
「そうだけど、なんでまた急に。あんた、今まで生みの親のことなんか気にもしてなかったじゃない」
「さーなー、なんでやろ。もうすぐ死ぬー思たらな、なんかふと、その前にいっぺんくらい親に会ってみるのもええかなー思てなー。どうせ最期やし。心残りはないほうがええやん」
「……………」

 心残り、という言葉がちょっとあたしには意外だった。

 そうなのか。弥生も、やっぱり少しは実の両親のことを気にしていたのか。
 今まで一度だってそんなそぶりを見せなかったから、正直あたしにも分からなかったけど、そうだったのか。

 あたしは口を開いた。

「なるほど。で、それにあたしも付き合って欲しいってわけね」
「そういうこっちゃ。ええやろぉ?」
「期間によるわね。どれくらい滞在するつもりなの?」
「うーん、一カ月くらいやろか」
「一カ月ぅ?」

 あたしはちょっと驚いてしまった。

「それはちょっと長すぎるんじゃない? ほとんど夏休み全部じゃない」
「そや。夏休みほとんどを使っての一大旅行や。楽しそうやろ~?」
「病院はどうすんのよ、病院は。一学期が終わったらまた入院するんじゃなかったの?」

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