夏空 41


「……………」

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「言い寄られて、甘い言葉を囁かれると、コロっと騙されちゃってね。やっと私を本当に愛してくれるひとが現れた、今度こそ運命のひとだ、なんて、いつも最初だけ舞い上がって……でも、結局はいつも遊ばれて、最後には捨てられて……そのたびに傷ついて……そしてまた新しい男にコロっと騙されて……そんなことばっかり繰り返していたわ」

 あたしは、かける言葉が見つからなかった。

 正直、あたしにはまったく理解が出来ない。

どうして葉山香織はそうこまで間違ってしまったのだろう。

 幸せを求めていたはずなのに、なぜそこまで自分を不幸にしてしまえるのだろう。

ハッキリ言って、葉山香織の人生は――なんだか滑稽だ。バカバカしくさえ思える。自分で自分の人生を台無しにしているとしか思えない。

そんなひとが母親では、弥生が可哀想だ。

「あの子は、本当の幸せがどんなものか、分からなかったんでしょうね……」

 まるであたしの心を読んだかのように、陽子さんが呟いた。

「分からないから、必死になって求めて……それがまったく違うものだってことにも気付かないまま、しがみついていたんでしょうね」
「……………」

 やっぱり、言葉が見つからなかった。

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「子供はどうなったんですか?」

 それまで黙っていた弥生が、静かに先を促した。

「産んだわ。妊娠が分かったころにはもう三カ月を過ぎていたし、あの子も子供は欲しがっていたから。というよりも、温かい家庭がね」

 それはきっとその通りだったのだろうと、あたしはなぜか確信した。

「それで、その子はその、どんな子だったんですか?」

 あたしは上手く質問を考えることが出来なかった。

「女の子だったわ」

 弥生が、またも身を強張らせた。

「香織ちゃんに似た美人さんでね、目がぱっちりしてて、天使みたいにかわいかったわ」

 それは、まるで弥生に向けて語りかけているような口調だった。

「あの、陽子さんはその赤ちゃんを見たことがあるんですか?」
「一度だけね。あの子が退院したときに」
「退院? 赤ちゃんがですか?」
「違うわ、香織ちゃんよ」
「え?」

 陽子さんは、今度こそ辛そうな表情で、絞り出すように言った。

「あの子ね、妊娠中に、脳に腫瘍が見つかったのよ。それで、余命一年って宣告されたの」

 あたしは目の前が真っ白になった。

 なんなんだろう、それは。そんなことってあるんだろうか。そんな、踏んだり蹴ったりの、絵にかいたような不幸の連続がこの世にあるのだろうか。坂道を転がり落ちるような理不尽な人生があるのだろうか。

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