夏空 43


「弥生……」
「親なんか、捜すんやなかった」
「……………」
「ただの無責任なアホ女やん」
「弥生……」
「なにが信頼できる親戚に預けるや。山の上に置き去りにして、殺す気やったんか」
「弥生」
 あたしは、両腕で包みこむように弥生を抱きしめた。

 ポツポツ、ポツポツと大粒の雨が地面を叩いた。

 雨は一瞬にして勢いを増し、水滴のヴェールと化してあたしたちに降り注いだ。

 だけど、それさえも今はありがたい。

 あたしの小さな親友の、まるで獣のような泣き声を、覆い隠してくれるのなら……。

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 その日から数日間、弥生は体調を崩して宿で寝込んだ。

 雨に打たれたのが悪かったのか、それとも精神的なものなのか。熱が下がらずずっと布団のなかでうなされていた。

「本当に、お医者さんを呼ばなくていいの?」

 さすがに三日もそんな状態が続いたとき、女将の美知子さんが心配そうに尋ねた。

 ちなみに窓の外は雨だ。あの日以来ずっと降り続いているのである。

 あたしは言った。

「大丈夫です。風邪薬なら持ってますので。それに、この子ってもともと身体が弱くて、しょっちゅうこんな風に寝込んじゃうんですよ。もう少し寝てれば治ると思います」
「それならいいけど……」
「おばちゃーん、心配せんでええでー。ただの風邪やからー」

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 布団のなかで弥生も言う。

 しかしその顔は真っ赤な上に汗でびっしょりになっており、とても大丈夫そうには見えない。

 あたしも本音を言えば病院に連れていきたいのだが、弥生がそれだけは嫌だというのでしょうがなく従っているのだ。

 まあ、もしも病院に行って、今すぐ入院する必要があるなんて診断されてしまえば、その時点でこの旅行は終わってしまうのだから、気持ちは分からないでもないけれど。

「まあ、大丈夫ならいいんだけど……」

 美知子さんはそれでも心配そうに、言った。

「それにしてもこの雨といい、これじゃせっかくのお祭りが台無しね。ふたりにはぜひ白海のお祭りを楽しんでいってもらいたかったんだけど……」
「そう言えば、お祭りがあるんでしたよね。いつでしたっけ?」
「明日よ。天気予報では一応、晴れってことになってるんだけど、この様子じゃあ安心は出来ないわねえ」

 危ない、危ない。お祭りのことをすっかり忘れていた。

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