夏空 44


 と同時に、例の小さなサプライズのことも忘れていた。ホント、危ないところだった。

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「大丈夫やー。明日までにはウチ、絶対に治してみせるから。お祭りには這ってでも行ってみせるでー」
「そう。じゃあ、とにかく安静にね。お医者さんを呼ぶ気になったらすぐに言うのよ」
「はーい」
 
 美知子さんが部屋を出ていった。

 あたしは呆れ顔で、弥生に言う。

「あんた、本当にお祭りに行きたいのねぇ」
「当然や~。明日までには根性で治したるでー」
「やれやれ。でも、もしも明日になっても身体の調子が悪いようだったら、アンタには悪いけど連れて行ってあげないからね。おとなしくあたしとここにいるのよ」
「大丈夫やー。美代ちゃん、ウチのカバン取って」
「……あいよ。なに、着替えるの?」
「ちゃうちゃう。薬飲むんや」

 弥生はそう言って、またもカバンのなかでパキパキと薬を取り出し始めた。

「だから、カバンの外でやればいいでしょうが」
「まーええやん。しまうの楽なんやし」
「まったく……って、ずいぶん多いわね」

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 弥生の手には十錠近い錠剤が乗っていた。

 学校にいたときにはいつもそれくらい飲んでいたのだが、この旅の間に弥生が一度にそれだけの数の薬を飲むのを見たのは初めてだ。

「なに言うとるんや、いつもウチ、これくらい飲んでるで」
「そうだっけ?」
「なにしろウチの記念すべきお祭りデビューなんやからな。万全を期せなあかんやん」
「はいはい。たく、お祭りひとつでそこまで気合入れる人間なんてアンタぐらいよ」

 まあ、それで弥生の気が晴れるのなら、ありがたいことだ。

 ちなみに、あの日以来、弥生との間に葉山香織の話題が出たことはない。

 お互いに触れないようにしているのだ。

 ただ、あれ以来、弥生が窓の外の狗堂山を眺めていることが多くなったことが、あたしは少しだけ気になっていた。

 その数時間後、あたしは弥生が寝入ったのを確認してからこっそりと町へ出かけた。

 お目当てのアイテムを購入し、宿に戻ってからは、弥生に見つからないようにカバンのなかに隠しておいた。

 それから、あたしは雨が止むことと弥生の体調が全快することを祈りながら眠りについた。
 
 そして翌日。弥生が待ちに待ったお祭りの日。

 前日までの雨は嘘のように上がり、弥生もまたびっくりするくらいに回復した。

「へっへー、どうや、ウチの根性パワー、見たか」
「ただ単にお祭りに行きたいだけでしょ。というか、その力をもっと別のことに使えないの、あんたは」

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