夏空 46


「はいはい、慌てないの。迷子にならないようにしっかり手を握ってんのよ」
「分かっとる」

 と言ったものの、興奮している弥生はあたしの注意などすぐに忘れて、どんどんと人ごみのなかに分け入ろうとする。

スポンサーリンク

「美代ちゃん、あれは何や? あれは? あっちは? わっ、あっちにはたこ焼き屋があるで! こんな暑い日にたこ焼きなんて売れるんかいな?」

 お祭り初心者の弥生には、目につくものすべてが新鮮らしく、片っ端から興味を示しては、ぐいぐいあたしの手を引っ張って近づいていこうとする。

「ちょっとは落ち着きなさいってば。そんな慌てなくったって、屋台は逃げやしないわよ。というか、さっきからどこに行こうとしてるのよ」
「あれや、あれ。ウチ、お祭りに言ったら絶対にあれがやりたいと思ってたんや」
「あれ?」
「金魚すくいや!」

 宣言通り、弥生は金魚すくい屋の前で立ち止まった。

「へい、いらっしゃい。一回遊んでいくかい?」
「もちろんや。美代ちゃん、ええやろ?」
「もちろん。けど、なんでまた金魚すくいにそんなに憧れてたのよ」
「だって、テレビでお祭りのシーンになったら、決まって金魚すくいやってるやん。ウチもいつかやってみたいなーって思ってたんや」
「……なるほどね」

 逆に言うと、今までテレビのなかでしか金魚すくいを観たことがなかったということか。

 それなら、今日は思う存分やらせてあげよう。あたしはそう決心した。

 ……決心、したのだが。

スポンサーリンク

「いっくでー」
「あっ、バカ!」

 弥生が、金魚すくい用のポイを勢いよく水に突っ込んだので、あたしはつい声を上げてしまった。 

 案の定、弥生のポイは着水の勢いにやられ、破れてしまった。

「ええー、な、なんやこれー、おっちゃん、これ、不良品なんとちゃうか~?」
「おいおいおい、お嬢ちゃん、人聞きの悪いこと言ってもらっちゃこまるな。今のはどう見てもお嬢ちゃんが悪いだろう」
「ええっ?」
「破けやすいんだから、もっとゆっくり、慎重に水に入れるのよ。ほら、もう一回やってみなさい」
「わ、分かった……」

 もう一度、今度は慎重すぎるくらいに慎重にトライする。

 が、今度は水のなかに入れる所まではクリアできたのだが、目当ての出目金を捕らえる段になってあっさりと失敗してしまった。

 弥生が泣きそうな顔をあたしに向ける。

「取れへん~」

スポンサーリンク

前へ 次へ 作品一覧へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA