「んないきなり大物を狙っちゃダメだっての。まずは小さい奴からコツコツと。オーケイ?」
「お、おーけい」
三度目のトライ。
弥生は緊張しながら、ついに一匹目を、人生初となる最初の金魚をすくい上げることに成功した。
「おお、やったじゃない。おめでとう」
あたしが言うと、弥生はちらりと肩越しにあたしを見た。
それから、金魚の入ったお椀をかかげて、叫んだ。
「獲ったどー!」
「……やめなさい」
あたしはため息をついた。
まさか、それがやりたかっただけじゃないでしょうね……。
結局、弥生は計二匹の金魚をすくい上げた。
あたしも隣でやってみたけど、残念なことに一匹しかすくえなかった。ちょっとだけ悔しい。
「はあー、楽しかったなー」
金魚すくいが終わると、弥生は満足そうに吐息をついた。
ちなみに金魚は、飼えないからという理由でお店に返してあげた。
「美代ちゃん、次はウチ、射的がやりたい。射的はどこや?」
「この辺りには見当たらないわね。もっと奥の方じゃないかしら」
「あとウチ、リンゴ飴が食べたい。あとかき氷も!」
「はいはい。慌てないの」
あたしは苦笑しつつ、弥生がはぐれないようにしっかりと手を握り締める。
ほんと、これでは完全にお母さん状態だ。我ながら若さが足りないとちょっぴり反省したりもする。
でもその一方で、あたしと弥生の関係はこれでいいと思ったりもする。
弥生が楽しんでいる。喜んでいる。
その顔を見られるだけで、あたしは満足だ。
「美代ちゃん、美代ちゃん、次はあれやろうや、あれ!」
「おーけい。けど、ふふふ、覚悟しなさい。あれはあたしの得意種目よ」
「ホンマかー! でも、ウチも負けへんで! 努力と根性で勝ってみせるで!」
「面白い。返り討ちにしてあげるわ」
ああ、このまま、時が止まってしまえばいいのに……。
あたしは弥生と笑い合いながら、ふとそんなことを考えた。
このまま永遠に、この幸せな時間が続けばいいのに。弥生が死ぬこともなく、苦しむこともなく、悲しむこともなく、ずっとこうして無邪気に遊び続けていられたらいいのに。
それがどんなに虚しい願望だと分かっていても、あたしはそう願わずにはいられなかった。
祭りに参加していると、人々の楽しげな喧騒が、明るい祭り囃子が、ふとした瞬間に、とても寂しく聞こえるときがある。
それはきっと、祭りの終わりを考えてしまったときなのだろう。
この瞬間があまりにも幸せで、満ち足りているからこそ、終わりが来るのが怖くなるのだろう。
なぜなら、楽しい時には必ず終わりが来ることを、誰もが本当は知っているから。
この夏と同じように、永遠に続くことはないと知っているからだ。
お祭りは、楽しくて、幸せで、そして終わると、少しだけ寂しい……。
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