夏空 47

「んないきなり大物を狙っちゃダメだっての。まずは小さい奴からコツコツと。オーケイ?」
「お、おーけい」

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 三度目のトライ。

 弥生は緊張しながら、ついに一匹目を、人生初となる最初の金魚をすくい上げることに成功した。

「おお、やったじゃない。おめでとう」

 あたしが言うと、弥生はちらりと肩越しにあたしを見た。

 それから、金魚の入ったお椀をかかげて、叫んだ。

「獲ったどー!」
「……やめなさい」

 あたしはため息をついた。

 まさか、それがやりたかっただけじゃないでしょうね……。

 結局、弥生は計二匹の金魚をすくい上げた。

 あたしも隣でやってみたけど、残念なことに一匹しかすくえなかった。ちょっとだけ悔しい。

「はあー、楽しかったなー」

 金魚すくいが終わると、弥生は満足そうに吐息をついた。

 ちなみに金魚は、飼えないからという理由でお店に返してあげた。

「美代ちゃん、次はウチ、射的がやりたい。射的はどこや?」
「この辺りには見当たらないわね。もっと奥の方じゃないかしら」
「あとウチ、リンゴ飴が食べたい。あとかき氷も!」
「はいはい。慌てないの」

 あたしは苦笑しつつ、弥生がはぐれないようにしっかりと手を握り締める。

 ほんと、これでは完全にお母さん状態だ。我ながら若さが足りないとちょっぴり反省したりもする。

 でもその一方で、あたしと弥生の関係はこれでいいと思ったりもする。

 弥生が楽しんでいる。喜んでいる。

 その顔を見られるだけで、あたしは満足だ。

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「美代ちゃん、美代ちゃん、次はあれやろうや、あれ!」
「おーけい。けど、ふふふ、覚悟しなさい。あれはあたしの得意種目よ」
「ホンマかー! でも、ウチも負けへんで! 努力と根性で勝ってみせるで!」
「面白い。返り討ちにしてあげるわ」

 ああ、このまま、時が止まってしまえばいいのに……。

 あたしは弥生と笑い合いながら、ふとそんなことを考えた。

 このまま永遠に、この幸せな時間が続けばいいのに。弥生が死ぬこともなく、苦しむこともなく、悲しむこともなく、ずっとこうして無邪気に遊び続けていられたらいいのに。

 それがどんなに虚しい願望だと分かっていても、あたしはそう願わずにはいられなかった。

 祭りに参加していると、人々の楽しげな喧騒が、明るい祭り囃子が、ふとした瞬間に、とても寂しく聞こえるときがある。

 それはきっと、祭りの終わりを考えてしまったときなのだろう。

 この瞬間があまりにも幸せで、満ち足りているからこそ、終わりが来るのが怖くなるのだろう。

 なぜなら、楽しい時には必ず終わりが来ることを、誰もが本当は知っているから。

 この夏と同じように、永遠に続くことはないと知っているからだ。

 お祭りは、楽しくて、幸せで、そして終わると、少しだけ寂しい……。

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