夏空 48

「ふいー、楽しかったなー」

 それから、どれだけの時間を過ごしただろうか。

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 あたしたちは石段の上、大きなお社のある神社の隅で一休みしていた。

 境内の真ん中には大きな櫓が組まれていて、その周りでは、たくさんのひとたちが盆踊りを楽しんでいる。

 重厚な和太鼓のリズムが、櫓のてっぺんで力強く響いている。

 でもその音も、あたしたちがいる場所からだと少し遠い。

 煌々と光に包まれている櫓と、その周りを踊っている人たちを見ていると、まるで別世界にいるような、不思議な気持ちになってくる。

 そろそろ、祭りも終わりが近づいているようだ。

 あたしと弥生は境内の隅に置かれていたベンチに並んで腰を下ろした。

 あたしは訊いた。

「弥生、疲れてない?」

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「全然大丈夫やー、ウチ、こんなに調子ええのなんて何年ぶりかやで!」
「なら良かった。しかしあんた、今日は本当に楽しそうだったわね」
「もちろんや。それもこれも、美代ちゃんのおかげや」

 弥生は笑った。

「ウチみたいなワガママ女に付き合ってくれる人間なんて、世界中探したって美代ちゃんくらいしかおらんで。ホンマ、ありがとな」
「お礼なんていいわよ。あたしが好きでやってるんだから」

 お祭りの興奮のあとだからだろうか、あたしはいつもよりもずっと素直になれていた。

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 弥生は、昔を懐かしむようにあたしを見て、

「美代ちゃんは優しいなあ。初めて会ったときからずっと変わらずや」
「初めて会ったとき? なにかしたっけ?」

 あたしと弥生が初めて会ったのは、小学校一年生のときだ。

 そのときから弥生は身体が弱く、学校を休みがちだったが、特にこれといって何かをしてあげたという記憶はない。

 まあ、あのころからあたしたちはすでに仲が良かったが。

「いつもそばにいてくれたやん」

 弥生は言った。

 あたしは拍子抜けしてしまった。

「それだけ?」
「そうや。それだけでええねん。それだけでもウチ、めっちゃ嬉しかったんや。いつも寂しかったからな」

 弥生も祭りの余韻で正直になっているのか、いつもは決して言わないような言葉をあっさりと口に出した。

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