夏空 50


「そう。……それも面白そうね」

 弥生と一緒に色々な所に行き、おバカなことを言い合って、いつまでもふたりで笑い合う。

 決して叶わない夢だと分かっているのに、そんな未来が来ればいいなぁなんて、心のどこかで思ってしまった。

スポンサーリンク

「美代ちゃんは? やっぱりマンガ家になりたいんか?」
「うん。まあね。やっぱり子供のころからの夢だから」

 しかし、言葉とは裏腹に、あたしの眼は弥生から逸れていった。

「でもさ、正直言って、最近ちょっと自信がなくなってきてるのよ。出版社のひとにもボロクソ言われちゃったしさ」

 弥生と同じく、あたしもまた、誰にも言ったことのない本音を口に出していた。

「大丈夫や。美代ちゃんならきっとなれる」

 弥生が言った。

 いつも通りの、明るくお気楽な笑顔で。

「なんたって、ウチの自慢の友達なんやからな。マンガ家になるなんて楽勝や!」
「うん……だといいんだけど」
「弱気になったらあかん。美代ちゃんには時間がいっぱいあるやん」

スポンサーリンク

 弥生はまっすぐにあたしの目を見て、言った。

「諦めたらあかん。何回失敗してもええやん。出版社のひとに何度貶されたって、そのたびにもっとええものに描き直して、見返したったらええやん。落ちこんどる暇なんてないで!」
「弥生……」
「それに美代ちゃん、白海に来てからいっぱいええ絵描いとったやん。ウチなんかよりずっと上手やったで。明るくて、観とるこっちが元気になれる絵ばっかりやった。あの絵は美代ちゃんにしか描けへんのやで」
「……………」
「だから、諦めたらあかん。やりたいことやらんかったら、美代ちゃんの人生がもったいないやんか」

 あたしはそこまで言われて、ようやく、弥生があたしのために叱ってくれているのだと気づいた。

 弥生は、あたしが過ちを犯すまえに正してくれているのだ。

 限りある人生を無駄にしないように。

 誰よりも限りのある人生を生きている彼女が。

「……そっか。……そうよね」

 あたしは、なんだか彼女の怒りに勇気づけられた気がして、気がつくと笑顔になっていた。

「まだ諦めるには早すぎるわよね。あたしには、まだまだ時間があるんだもの。こんなところで逃げ出してたら人生の浪費ってもんよね」
「その通りや。さすが美代ちゃん」
「ありがと。あんたのおかげでやる気を取り戻せたわ。もうこうなったら、出版社のひとに嫌がられるくらいしつこく持ち込みにいってやるわよ!」
「その意気や! やったれー、美代ちゃん!」
「で、そこで弥生にお願いがあるんだけど」
「へ?」
「絵、描かせて。今。なんか急に描きたくなってきちゃった」

スポンサーリンク

前へ 次へ 作品一覧へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA