夏空 52


 祭りが終わると、あたしたちはバスに乗り、宿から一番近いバス停に降りた。
 ここからは、宿まで歩かねばならない。

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 市街地から離れたこの辺りには、わざわざバスに乗って祭りに出かけるような人間はいないらしく、辺りにあたしたち以外の人影はなかった。

 夜も更けた田舎の道を、ふたりで並んで歩く。

 お祭りの興奮が冷めた反動なのか、あたしたちの口数は少なくなっていた。

 だけど、心地よい沈黙だ。

 左右の田んぼを渡ってくる風の香りも、とても落ち着く。

 その沈黙を破ったのは、弥生だった。

「美代ちゃん。そろそろ、ウチらの街に帰ろうか」
「……そうね」

 あたしは驚かなかった。

 あたしも、そろそろ頃合いだと思っていた。

 あたしたちがこの町にいる理由は、もうないのだから。

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「戻ったら、どうする? まだ夏休みは一週間以上残ってるんだし、近場でもいいから遊びに行く?」
「ううん、たぶん、戻ったらもうどこにも行けへんと思う。入院せなあかんから」
「え? だって、入院は九月からなんでしょ?」

 そのとき、突然、弥生が立ち止まった。

 なぜか悲しそうな顔をあたしに向け、伏し目がちに、言葉を吐き出す。

「ごめんな、美代ちゃん。ウチ、美代ちゃんにいっぱい嘘ついてたんや」
「え……?」
「ホンマはな、夏休みになったらすぐに入院することになってたんや」

 あたしは、すぐにはその意味を理解出来なかった。

「どういうこと? だって、先生が許可してくれたって」
「そんなん嘘や。本当は、黙って旅に出たんや。病院から電話がかかってくるのも嫌やったから、携帯の電源も切っとったんや」

 あたしは、弥生の携帯がいつもオフになっていた理由をようやく知った。

「どうして、そんなことしたのよ」
「……分からん」
「分からんじゃないでしょ! そんな勝手なことして、もしものことがあったらどうするのよ! あたしに嘘までついて!」

 あたしは怒りを押さえることが出来なかった。

 嘘を吐かれたことに怒ったわけではない。

 弥生が、自分の命を粗末にしているような気がして、腹が立ったのだ。

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