夏空 55


 第四話 幸せのカタチ

スポンサーリンク

「一体、なんだって急にそんなこと言いだすのよ」

 あたしは、もしかしてこれはいつものギャグの一種なのではという小さな期待を込めつつ、弥生に尋ねた。

「確かめたいねん。ウチの母親がウチをあそこに捨てた理由を」

 しかし、弥生の決意は固く、とても冗談を言っているようには見えなかった。

「明日じゃダメなの?」
「ダメや」
「どうして?」
「薬が、もうない」

 弥生はまたも、あたしがすぐに理解出来ないことを言った。

「薬って、あんたが毎日飲んでる、あの薬?」
「そうや。ウチ、本当は夏休みに入ったらすぐに入院するはずやったって言うたやろ。だから、薬も七月分までしか持ってなかったんや。昨日までは毎日飲む量を少なくしてどうにかやりくりしてたんやけど、今日のお祭りはどうしても行きたかったから、昨日から飲む量を元に戻したんや。おかげで元気にはなれたけど、さっき飲んだ分でもう全部なくなってもーた。だから、明日じゃあかんねん。薬の効き目があるのは、良くて明日の朝までや」

 あたしは、どんどんと追加して明かされる衝撃の事実に、またも言葉を失ってしまった。

 が、そこでハッと気づく。

スポンサーリンク

「じゃあ、あんた、この旅に出てからあんまり薬飲んでなかったのは、残り少ない薬を節約するためだったの?」
「うん」
「じゃあもしかして、いつもカバンのなかに手を入れて薬を取り出してたのも、薬の残りが少ないことを見られないようにするため?」
「うん」
「初日の夜にうなされてたのも、発作が出て眠れなかったから?」
「……うん」
「あんたねー……」

 あたしは額を押さえた。

 弥生は慌てて、

「ごめんや、美代ちゃん。ごめんなさい。でも、ずっと嘘ついてたことはさっき謝ったやろ? だからこうして素直に打ち明けとるんやん」
「……あんたに怒ってんじゃないわよ。ちっとも気付けなかった自分の迂闊さに呆れてんの、あたしは」

 本当に、自分の鈍さに呆れてしまう。

 あたしは弥生が隣で苦しんでいることにも気付かずに、ひとりで旅を満喫して熟睡していたのだ。まさに穴があったら入りたい気分である。

 いいや、もはや、自分に腹が立つほどの失態だ。

 あたしはため息を吐き、言った。

スポンサーリンク

前へ 次へ 作品一覧へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA