夏空 56


「弥生、なんというかその、気づけなくてごめん」
「なんで美代ちゃんが謝るんや。悪いのは全部ウチやで。友達に嘘ついて、こんな長旅に突き合わせてしもたんやから。普通なら絶交されとっても文句言えんで」
「それでも、ごめん。いやホント」

 そのときあたしは、たぶんこのミスは一生、心に傷として残るんだろうなぁと確信した。

 そして実際、それはその後も忘れられない思い出としてあたしの心に残っている。

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「……まあ、過ぎちゃったことはとりあえず横に置いておいて、とにかくあんたの言いたいことは分かったわ。薬の効果が続いているうちに、あの山に登って真相を確かめたいってわけね」
「その通りや」
「でもねえ……いくらなんでも今日これからっていうのはキツイんじゃないの? さんざんお祭りで遊んできたばっかりだしさあ」
「今すぐでなくてええねん。日の出までに間に合えばええんやから、あと何時間かは休めるはずや。ちょっとだけ仮眠してから行こうや」
「ねえ、さっきから気になってたんだけど、どうして日の出にそう拘るのよ」
「だって、徳子おばあちゃんが言うてたやん。葉山香織はあそこでよく日の出を見てたって。だからウチがあそこに捨てられとった理由も、日の出と関係があるような気がするんや」
「うーん……」

 見ると幸せになれるという言い伝えのある狗堂山の日の出と、弥生があの場所に捨てられていた理由、か……。

 あるような気もするし、実はまったくないような気もする。

「な、ええやろー、美代ちゃん。この通りやからー」

 弥生は例のごとく、顔の前で両手を合わせて拝むように懇願した。おねだりモードの本領発揮だ。

 本音を言えば、断りたかったし、断るべきだとも思っていた。

 弥生の体力的なことを考えても、これ以上、危険なことはさせられない。

 本当は入院するはずだったと聞かされればなおさらだ。

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 しかし同時に、あたしは考えていた。

 おそらくこれが、正真正銘、弥生の最後のわがままになるのだろう。

 つまりは、弥生が望む、最後の自由だ。

 望みを叶えて後悔することなく早世するのと、心残りを胸に秘めたままほんの少しだけ長生きすること。果たしてどちらが幸せと言えるのだろうか。

 あたしは、前者だと思った。

 そしてなにより、弥生の命の使い方は、弥生に決める権利があると思った。

 あたしに出来るのは、その手伝いをすることだけだ。

 だから、あたしは言った。

「分かったわ。付き合ってあげるわよ」
「ホンマか!」
「ただし、あたしが危険だと判断したら素直に諦めること。この約束が守れないならこの話はナシよ」
「了解や。大丈夫、絶対に無理はせーへん!」

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