夏空 6


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「確か、ウチの病気の治療が出来る病院が近くにある施設がここしかなかったからやったそうやで~。ウチ、物心つくより先に病気が見つかっとったからなあ~」
「ああ。なるほど」
「まあ、その施設ももう移転してもうて、今ではウチもひとりぐらしやけどな~。いそがしいこっちゃ」

 弥生の暮らしていた施設が隣の県に移転してしまったのは、三カ月ほど前のことだ。隣の市と合併したために、良く分からないけど、行政上、施設を移さなければならなくなったらしい。

 しかし弥生は病院の傍から移るわけにもいかず、なおかつ本人の希望があったので、今ではウチの近所のマンションで一人暮らしをしている。 

 ウチで預かるという案もあったのだが、それもまた弥生の意志で却下されてしまった。あまり他人に迷惑をかけたくないのだ。
なぜなら弥生は、生まれてからずっと他人に迷惑をかけて生きて来たから。事実はともかく本人はそう思っているから。

 だから今回のような大きな頼みごとをされたのは、あたしにとっても初めてのことだった。

 それだけ本気なのだろう。

 ならあたしは、それを全力で叶えてあげたいと、心の底から思う。

 この小さな、そしてたったひとりの親友のために、出来ることはすべてしてあげたいと本気で思う。

 もちろんそんなことは、照れ臭いので口に出したりは絶対にしないけど。

「でも、一カ月も泊まるとなると、準備とか大変になるわね。宿のお金もバカにならないだろうし」
「心配あらへん~。ウチ、国からいっぱいお金もろてるから。道具から旅費からぜーんぶウチが出したげるで~。まさに弥生お大尽様や」

 難病に侵され、そのうえ家族のいない弥生は、国から色々と手厚い保護を受けている。
生活費の支給もそのひとつだ。

 ただし、もともと物欲の少ない弥生はそのお金の大部分を残してしまっているので、貯金がけっこうな額になっているらしいのだ。

 が、あたしは、なんだか煮え切らない想いがした。

「弥生はそう言うけど、さすがに全部出してもらうのは気がひけるわよ。うん。やっぱりあたしも半分、出すわ。お年玉の貯金だってあるし、なんとかなるでしょう」

 が、弥生は慌てて反対した。

「ダメやダメや~。これはウチが言いだしたことなんやで。美代ちゃんに負担なんてかけたくないねん。それに、ウチがお金なんて持ってても仕方ないんやから、パーっと使ってもうた方がええねん」
「そうは言ってもねえ。こういうときに遠慮しちゃうのが日本人ってもんなのよ」

 あたしは渋ったが、結局、弥生に説得されてしまい、宿代は弥生に出してもらうことになってしまった。

 うう、これは何かお返しでもしないとすっきりしないわね。
 この旅の間に、何かプレゼントでも買ってあげるとしましょうか。

「まあとにかく、そうと決まったら今日から旅の準備を始めるとしましょうか。今日から色々と忙しくなるわよ」
「おー!」

 こうして、あたしたちの旅の予定は唐突に始まったのだった。

 それから、あたしたちは旅の準備を始めた。

 白海という場所をインターネットで調べてみると、人口十万人ほどの、山間にあるそこそこの大きさの街だった。

 有名な場所ではないので宿も期待できないのではないかと不安になったが、幸運なことに白海にはなんとかという伝統的なお祭りや、『狗堂山』という初心者向けの登山用の山があるため、泊まる場所に困ることはなさそうだった。
そして、あっという間に出発の日がやって来た。

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心の研究家。 『人生はその人の心の状態で決まる』 を信条に、弱い心を強くする方法や、人間関係の悩みの解決法などを教えています。 人生に悩みを抱えている人は心を磨く努力をしましょう!