夏空 62


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「え?」
「だってそうやん。女子高生がふたり、泥だらけになりながら、肩組んで明け方の山を登ってるんやで。こんなん、絶対普通やないやん。あはは」
「ぷっ。そういやそうね。普通の女子高生だったら、彼氏と旅行したりしてるもんだもんね。なのにあたしらは、ぜぇぜぇ言いながら山登り」
「まるで大昔のスポ根ドラマやで、これ。アハハハハ」
「アハハハハハ。ホント、アホよね、あたしたち」
「ホンマ、アホアホや。アホアホ女子高生ズや!」
「ぷぷぷ、なによそれ、アハハハハハ! ちょっと、笑わせないでよ。懐中電灯落っことしちゃうじゃない。アハハハハ!」
「アハハハハ! ええやん、アホアホ女子高生ズなんやから」
「ふふ、確かにね。アハハハハハ!」
「アハハハハハハハハ!」

 あたしたちはお腹を抱えて笑い合いながら歩き続けた。

 ああ、なんて楽しいんだろう……。

 このおバカなやりとり。無駄極まる行動。他人から見たらどうしようもなく無意味で、人生の浪費にしか思えないようなこの一瞬一瞬が、堪らなく愛しくて、キラキラとあたしの胸のなかで輝いている。

 あたしは、今ならきっと胸を張って言える。

 今のあたしたちには、もうこれ以上、何もいらない。

 地位も名誉も財産も、恋人も健康も何もかも、今のあたしたちには無用の長物だ。

 幸せとは、満ち足りていること。

 だとすれば、今のあたしたちこそがまさに幸せそのものだ。

 誰が、あたしたちを否定出来るだろう。

 誰が、弥生を憐れむことが出来るだろう。

 あたしは断言する。

 そんなことが出来る人間は、この世にいない。

 だって、幸せは比べられるものではないから。

 数値にして測れるものではないから。

 だから、あたしたちは無敵なのだ。

「なあ、美代ちゃん。葉山香織のことやけど……」

 突然、弥生が言った。

「葉山香織がどうかしたの?」
「ウチな、思うねん。やっぱあのひと、間違ってたよなぁって」
「……そうね」

 弥生もあたしと同じことを考えていたようだ。

 そうだ。葉山香織は間違っていた。

 あるはずのないものを求めてしまった。

 幻を追い求め、いつか手に入るはずだと勘違いし続け、そして知らない間に取り逃してしまった。

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