夏空 66


最終話 最後の一枚

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 弥生は白海から戻って来た数日後に再び入院した。

 あたしは残りの夏休みの間、ほとんど毎日弥生のお見舞いに行った。

 夏休みが終わって新学期が始まっても、時間の許す限り病院に足を運んだ。

 弥生は入院しているというものの、はた目にはいつもと変わりがなく、ベッドの上でしょうもないギャグを言っては半ば強制的にあたしに漫才の相方を勤めさせた。

 そんなある日、あたしは弥生がベッドの上で見慣れたものを広げているのに気づいた。

「あれ、それって、白海で使ってたノート?」
「そうや」

 それはあたしが電車のなかで弥生に渡したあの大学ノートだった。

 あたしほどではないが弥生もちょくちょく絵を描きためていたのだが、今はなにやら文字を書いているようだった。

「どうせなら絵日記にしよー思てなー。絵を見ながら白海のことを思い出しとるんや」
「なるほど。それはいい思いつきね」
「最後の方のページがちょっとだけ余ってもーてるんやけどなー。それも旅の思い出を思い出しながら埋めていくつもりや。ちょうどええ暇つぶしになるでー」

 弥生はなんだか楽しそうだった。その顔を見て、あたしは安心した。

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「でも」

 と、いきなり弥生は大学ノートを閉じた。

「せっかく美代ちゃんが来てくれてるんやから、もっと有意義に過ごさなあかんな。というわけで、今日もお話聞かせてや」

 話と言うのは、新学期になってから始まった新イベントで、今日一日学校であった出来事を、あたしが弥生に聞かせてあげるのである。

 それも、出来るだけ面白おかしくというルールつきで。

「わーったわよ。でも、あたしはあんたと違ってひとを笑わせたりするのは得意じゃないのよ。そんなに期待しないでよね」

 と言いながらも、あたしは弥生が元気になれるように、出来る限り話を明るく大げさにして伝えるのだった。

 弥生はそれを、笑いながら楽しそうに聞いてくれた。

 ひとを笑わすのも楽しいな、とあたしは思った。

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