夏空 69


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 そんな日々が二週間ほど続いた、ある日の深夜。

 弥生の容体が悪化したという病院からの報せを受けて、あたしは両親と一緒に病院へ向かった。

 しかしあたしたちが病室に駆けつけたとき、弥生はもう人工呼吸器を外され、ベッドの上で静かに目を閉じていた。

 横に立っていた白衣の先生が、静かな声で、

「十二時十五分、ご臨終です」

 と、まるでテレビドラマのセリフのようなことを言った。

「弥生?」

 あたしはふらふらとベッドに近づき、眠っている弥生の身体に両手を伸ばした。

「弥生? 弥生?」

 優しく肩を揺さぶる。

 するとまるでただの人形のように、弥生の身体がぐらぐらと揺れた。

 命が無くなっていた。

 頬に触れると、弥生はまだほんの少し温かかった。

 あたしは弥生の名前を何度も呼びながら、ベッドの上で弥生の身体を抱き上げた。

 まだ生きているような気がしたのだ。

 だけど弥生の身体にはなんの力も通っていなくて、あたしの腕のなかでぐったりとうな垂れているだけだった。

 あたしは力の限り弥生を抱きしめて、獣のように泣いた。喉が痛くなっても構わずに泣いた。あたしの心臓という名のガラス玉が、粉々に砕け散ってしまったような喪失感に襲われた。

 神様、どうしてですか?

 どうして弥生が死ななくちゃいけなかったんですか?

 どうしてこんなに早くお別れしなくちゃいけなかったんですか?

 どうして? どうして? どうして?

 答えなどあるはずのない問いを、胸のなかで発し続ける。

 頭の片隅ではいつか耳にした弥生の声が再生している。

『美代ちゃん、あのなー』

『昨日のテレビがメッチャ面白かったんや』

『やっぱ美代ちゃんはおもろいなー』

 神様、お願いします。もう一度だけでいいから――

 あの子の笑い声を聞かせてください。

 お願いします。

 どうか。

 どうか――

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