夏空 8


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そのために中学生のころから出版社に原稿を送り続けているのだが、残念なことに今のところ、一作も通っていない。

 先日、勇気を出して持ち込みにも行ったのだが、キャラクターに心が通っていない、だの、なにが言いたいのか分からない、テーマが伝わってこないなどの厳しいご指摘を受け、門前払いされてしまった。吉岡と言う名前の若い編集者さんだった。

 諦めるつもりなんてもちろんないのだけど、自信を失いかけているのも事実なのだ。

「なかなか難しいのよねえ。ひとを感動させるっていうのは」

 あたしはため息交じりに、知った風な口を利いた。もちろん単なる背伸びだ。
 と、あたしの言葉を聞いて、弥生が露骨に嫌そうな顔をした。

「ええ~? 美代ちゃん、ほんまに感動マンガなんか描く気なんか~? ウチ、そういうのキライや~」
「なんでよ。いいじゃない、感動の超大作。心揺さぶるハートウォーミングストーリー!」
「嫌や嫌や~。ウチ、ギャグマンガが好きなんやもん~。感動するマンガとか、考えさせられる映画とか大っきらいや~!」
「そりゃ、あんたはバラエティ番組大好きっ子だからそうなんでしょうけど。今の時代はそういうのが求められてんのよ」
「嫌や嫌や~!」
「子供か!」

 ぺちっ、とあたしは弥生の頭を軽くはたいた。

 あたしが言った通り、弥生はバラエティ番組が大好きだ。

 なにしろ、関西芸人の多いバラエティ番組ばっかり観ている内に、関西弁が移ってしまったぐらいである。
 別に関西生まれでもない彼女が、みょ~にうさんくさい関西弁を使っているのは、そういう理由なのである。

 そのバラエティ好きの反動でなのかどうかは知らないが、弥生は反対に、シリアスなテレビ番組や、感動を狙った映画などは好きじゃないらしい。

 とはいえ、だからといってあたしの夢を変更するつもりは毛頭ない。

「いくら弥生の頼みでも、こればっかりは聞けないわね。第一あたし、ギャグマンガとかってあんまり読まないし」
「うう~、つれないなあ、美代ちゃん」
「そんなにギャグマンガが好きなら、自分で描けばいいじゃない。アンタ、あたしよりも絵が上手いんだから」

 そう。悔しいことに、弥生はあたしよりも絵が上手いのだ。

 別にあたしのようにマンガ家を目指しているというわけではないのだけど、退屈な入院生活のときなどに暇つぶしで描いていたら、いつの間にか上達してしまったのだという。

 境遇はともかく、絵の才能の方は正直、羨ましい限りだ。

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心の研究家。 『人生はその人の心の状態で決まる』 を信条に、弱い心を強くする方法や、人間関係の悩みの解決法などを教えています。 人生に悩みを抱えている人は心を磨く努力をしましょう!